ウィスキーボンボンC「最後にホテルにウィスキーを残してきた。そのまだ若い女性画家の未来をかって私は一時間だけ彼女のモデルになることにした。いつも持ち歩いているウィスキーボトルに口をつけると、そのポーズを絵にさせて欲しいと頼まれ、中に入っていた酒をグラスにすべて雪いで、もう一度ボトルに口をつけた。しかし、彼女はそれを気に入らず、もう、あの絵は彼女のまぶたから消えてしまったと嘆いた。私は、最後にホテルにウィスキーを残してきた。ホテルのエントランスのタクシーに乗り込むと、タバコの香りがした。運転手は、私の一瞬の表情の変化をミラー越しに見て、謝罪した。いまどきのタクシーでドライバーの制止を振り切ってタバコをくゆらす客の姿を想像すると、意志の強さを褒めてやりたくなった。私はちょうど夜風に当たりたい気分だったので、窓を少し開けてもらい、行き先を告げた。」