向こうの世界

パラレルワールドと、現実が交錯しながら、どこかで現実の論理で把握できるように「オチ」を期待していいのかなって、思うわけよ。

だいたい、ワタシタチが普通に「フツウ」だと思っていることが、どこまで「普通」のこととして納得していていいのか、結構危ういんじゃないの。っていうか、「普通」を普通として保障してくれるメタ審判は、文字通り「正しい」ものなのかな。それに、そのメタ審判を保障する更なる「メタ」をたどろうとすれば、タブンきりがない。ってことで、ワタシタチが「フツウ」だと思っている現実世界と現実でまかり通っている「論理」が一見成り立たない(今のワタシタチが思っているところの)「パラレルワールド」が、実は、「虚構」なのではなくて、もっとずっと(「現実世界」よりも)「リアル」であるような気さえしてくる。


だから、ワタシは、村上春樹の物語が、時々「シックリきてしまう」。
それに、その作品の登場人物のモノガタリが、時々「シックリきてしまう」。


アフターダーク (講談社文庫)

アフターダーク (講談社文庫)

彼は顔を上げて、マリを見る。そして言葉を選ぶ。
「しかし裁判所に通って、関係者の証言を聞き、検事の論告や弁護士の弁論を聞き、本人の陳述を聞いているうちに、どうも自信が持てなくなってきた。つまりさ、なんかこんな風に思うようになってきたんだ。二つの世界を隔てる壁なんてものは、実際には存在しないのかもしれないぞって。もしあったとしても、はりぼてのぺらぺらの壁かもしれない。ひょいともたれかかったとたんに、突き抜けて向こう側に落っこちてしまうようなものかもしれない。というか、僕ら自身の中にあっち側がすでにこっそりと忍び込んできているのに、そのことに気づいていないだけなのかもしれない。そういう気持ちがしてきたんだ。言葉で説明するのはむずかしいんだけどね」

(pp141-2、なお太字の「あっち側」は、本文中では傍点で強調されている)