アカペラが、情報量としては多過ぎて、綺麗なメロディになっているはずのところなのに、まるで船酔いでもしたように、もういっぱいいっぱいな気持ちで、周りの人たちが旋律に身を委ねて心地よさ気にしているのが少し信じられなくなってしまう自分が、時々いる。


筆を置いてから、少なからず自分は冷めてしまったようだ。
まず、1番初めにしたのはお湯を沸かすためにコンロのツマミを握った。カップ麺に使うにも、紅茶を飲むにもどちらにも応用がきくと思ったのだろう。
そして、「アトリエの隅っこ」に置いてあったひじ掛けのないイスを担いで、部屋の真ん中に慎重に位置を確認しながら置き直した。
誰がいるでもないのに、誰にも気付かれぬよう、音を立てずに。
そして、カンバスを見直した。
その中にももちろん、誰もいない。モデルのいない空間が広げられているだけだ。


何かの拍子に、筆が机から転げ落ちた。ギクリとした。胸が強張って、溶けてこない。