(無機質な部屋、クライアントコンピュータが二機種、ぶざまな配線、壁に防極寒用毛皮のコート二着、ネクタイ、革靴、机二台、卓上ライト、卓上に資料、表紙白紙イチページ目が少し透けている)
質問者C「私たちは情報を盗用されないように暗号化の技術を磨いてきました。そして、その技術の使用ノウハウも蓄積してきました。しかし、このレポートには、我々の努力を否定する社会が到来したと主張しています。つまり、あまりに過剰な情報の伝達の中で、暗号を解かれる確率と大切な情報を見つけられる可能性の比較をした場合に、後者の確率が高いということが主張されています。その中で、暗号化は大切な情報の在りかを示してしまうということです。」

回答者C「全ての情報を暗号化するように法制化します。」

質問者C「コストの問題です。ゴミ情報を暗号化するコストや、ゴミ暗号はもはや暗号と呼べるほど難解ではないので、ほとんど効果はありません。難解な暗号化には相対的な時間が浪費され、それは社会的速度の低下を招きます。政治は、つまり多数者がもっとも恐れるのは社会的停滞であって、もっとも馴染みやすいのが耳障りのよい言説なのであれば、我々はそのコスト要求をする勇気が有るのでしょうか。」

回答者C「私はそれについて、回答することもできますが、それ以上に、あなたが納得しないであろう予感が強くて、これ以上口を開けていられないかもしれません。」