尊敬している素振りをして、「偉そうなこと言っててもあんたの言ってることやしてしまったことは哲学的に赦されないことなんだよ」という主張しか返していないという、それはただ単に否定というよりももう二三歩は質の悪い冗談でしかない振る舞いではありつつも、しかしながら全方位の天球天秤の一方を確実にしめる有り様であってその空間的な一点がなければ私も彼の方ももうその空間的な存在ではあり得なかったのです。あり得なかった。

もう、私が息をしている彼に触れることはないことが確実になったその宣告を聴くが早いか遅いか、私は生命保険の証書の所在を思い出しつつ、信じられないことに頬を伝う涙の無意識の原因を奥歯を噛み締めながら分析していたのです。この壁を挟んだ彼岸に彼の方が横たわっている、その肌に触れることもできず、何年も読んでいなかった名前をカルテのサインでもう一度思い出したものの、なんだかそれがあれではなかったような変な感覚が正しいような錯覚を正当化してしまいそうな平衡感覚で自分の脚を支えていました。いつのまにか勉強をしなくなって日々をやり過ごすことだけで精一杯になって、だれもそれを非難しなくなるのが自然なことだったように、私たちが肌を重ねる距離感からおたがいの匂いを感じることさえない距離感に落ち着いていったのは、重力に任せて雫が垂直方向に下へ下へと垂れ下がっていくのと同じように。同じでした。